二十台の頃、僕も友達がやるやうに、自画像を描いたことが二三度あるが、その後はすつかり無興味になつてしまつて、永年来自分の像を描いて見たことが無い。 一体、自分といふものは、自分には分らない。人様々の見るに任せるより外はない。 僕は子供の時分から體が弱かつたから、学生の時分も到底人並の健康者ではなかつた。で最も古い友人の、口の悪い山本鼎などは、時々「森田はとつくに死ぬだらうと思つたら存外長生きしさうだ」などと云ふ。実際自分でも、體が弱いのか、又存外體質が強いのか、ちつとも分らない。そのくせ僕はかなりの不養生家なのだ。之れも自分が意識的に不養生するからでなく、側から相当の不養生家だと見られて居る。勿論養生して居るといふ意識は毛頭ない。 一体自分といふものは、自分に分らぬところで生きて居られるものだらうが、近来の僕のやうに、自分といふものに興味を生じなくなつて見ると、自画像を描く気にはとてもとてもならない。これで御免下さい。 （昭和五年六月・美術新論） |
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