数年前のこと、画友足立（源一郎）君に誘はれ、大晦日の早朝に東京を立ち、其の日雪の山路を踏み違へたりして、夜の九時頃歩み着いたのが箱根の湯本でした。兎も角あそこの温泉で冷へた体を温めて、翌元朝に葦の湖に舟を呼んで箱根の元町へ渡りましたが、其の時湖上から見る湖畔の山を、今も忘れ難く美しく見ました。生憎富士は見えなかつたが、湖畔の冬山は、全く新らしい感じの山だつた。 箱根と言ふと、兎角俗地の感がすぐ頭に浮ぶけれど、斯ういふ雪の時節、俗客の殆んど無い時に行くと、なかなか変化に富んだよいところです。山あり温泉あり、雪あり湖あり、極めて静寂境です。 （昭和二年二月・美之国） 2 |
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