他の会に比して春陽会では素描を重視して居る。従つて年々の展覧会の一室を素描が占めて来て居る。版画も亦さうであるが、特に素描の数の集ることは、他の会に比して春陽会が最も多い。或る人は春陽会の素描室を軽い気持で味はつても居る。又或る人は之れを春陽会の意義ある室とも感じて居る。どつちの気持で見て貰つてもよいと思ふ。素描は絵が衣を脱いだ心のすがたである。尖端でなくて根本である。 西洋の素描の行き方と、東洋のとは自から相違がある。西洋で重じる素描の行き方は、主として骨組みである。東洋では骨組みだけの話でない。東洋の絵は最初から素袖に絵の命を打ち込む行き方である。東洋画は殆ど素描に終始するとしても決して差支ない。東洋的素描か、骨だけでなく血をも肉をも盛り込まうとする為めに、析々軟弱が現ぜられるのは遺憾だが、然し一見弱々しい画表であつて、実は極めて強い画心をひそめて居るのもある。素描を注視して居ると、東洋人の方が深く自然を視て居るといふことをしばしば感じる。 今のやうな展覧会場では、素描は見て貰ふのに一番損な立場に居る。軟らか味の無い室で、華々しい油彩に接した後に、素描に眼をやると弱々しく見える。さういふ第一に眼に損な素描だからよく見て、画心の確かなものを好まねばならないと考へる。見場所によつては、随分沈静な強さをひそめたよい素描でも、会場では看過されることもある。描く方も見分ける方も注意したいと感じる。 （昭和六年四月・春陽会雑報） |
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