私は今年、春陽会へ墨画小品の数枚を出品したに過ぎません。自ら少し考へることもあつて、私は自分の今年の出品の墨画を、水墨素描と乾墨素描との意味をもつて描いたのです。勿論乾墨素描は相対して目前の自然のままであり、水墨素描の方は、それから何物かの少許が洗はれ、何物かの少許が加へられました。然し其の洗ひ且つ加へた少許は、形の上のことではありません。乾墨と云ふ語は、水墨に対して私が言ふことで、それはコンテーの写生作なのです。コンテーは外で描き、水墨は家へ帰つて描きました。然し何れも私の考で、素描の意をもつて描いたものなのです。 私は自分の毛筆の画を、常に素描の意をもつて作ります。時に色を用ひても、同じく素描の意をもつて作ります。 （大正十三年四月・みづゑ） |
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