 青森県の古間木といふ小駅で下車して、約七八里の道を、汽車に乗つたり自動車に乗つたりして十和田湖に着く。 今はその湖畔まで自動車を走らすことが出来るが、真に十和田を観賞する者は、湖畔から三四里手前の焼山といふところで車を棄てて歩かねば駄目だ。十和田観賞の価値は、此の焼山から三里半許りの湖畔までの道、奧入瀬の溪流を閑却しては観賞価の半分は減じられると言つてよい。奧入瀬の溪流を有することによつて、十和田湖は比類なき景勝だと言へる。湖畔湖上の静寂なことは、此の湖の好ましい景感だが、太古の如き森林の中を静かに流れる、此の奧入瀬の溪流は誠に美しくて静かだ。溪に洽うて山路を歩いて湖水に出で、パツと明るい湖面を見た時の景感は、忘れ難く心に残つて居る。 |
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